① 令和9年(2027年)1月1日以降の相続・贈与から新ルール適用
② 相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産は「時価の約80%」で評価(路線価評価から変更)
③ 不動産小口化商品は取得時期を問わず時価評価へ(節税効果がほぼゼロに)④ 5年超の保有物件や自宅・事業用不動産は今回の改正の対象外
長年、富裕層の間で広く活用されてきた相続税対策のひとつが「賃貸不動産の購入」です。現金1億円で相続すると評価額は1億円ですが、同じ1億円を賃貸マンションに変えることで、路線価評価・貸家建付地評価・借地権割合などの評価減を組み合わせると評価額を大幅に圧縮できるという仕組みです。
タワーマンションの高層階では、時価と路線価の乖離が特に大きく「1億円で購入した物件が相続税の計算では2,000万円台の評価額」となるケースもありました。これが「タワマン節税」として問題視され、2022年の最高裁判決で一部の行き過ぎたスキームが否認されました。
2024年には路線価計算の見直し(新マンション評価)が実施され、タワマンの評価乖離が縮小。そして令和8年度税制改正大綱(2025年12月19日公表)では、さらに踏み込んで「5年以内に取得した貸付用不動産全般」の評価方法が抜本的に見直されることになりました。
改正後のルール(令和9年1月1日以後の相続・贈与から適用):
改正の対象と評価方法
つまり「亡くなる5年以内に購入した賃貸不動産は、路線価ではなく購入価額の約80%で評価する」というのが改正の骨子です。
例えば1億円で賃貸マンションを購入した場合、従来は路線価評価等で5,000万円程度まで評価を下げられることもありましたが、改正後は8,000万円(1億円×80%)で評価されます。節税効果が大幅に縮小します。
不動産小口化商品とは、特定の不動産を1口100万円や1,000万円単位に細分化した投資商品です。遺産分割のしやすさ・少額から相続税対策ができる点から富裕層に人気でしたが、評価乖離が特に大きい商品でした。
改正前は「3,000万円で購入した不動産小口化商品が相続税評価では480万円(約84%減)」という事例もありました。
不動産小口化商品の改正内容(貸付用不動産より厳格)任意組合型・信託受益権型の不動産小口化商品については、取得時期にかかわらず相続開始時または贈与時の「通常の取引価額(時価)」で評価することになりました。5年ルール(取得から5年以内のみ適用)が設けられている貸付用不動産と異なり、取得からの年数を問わずすべてに適用されます。令和9年1月1日以後の相続・贈与から適用。
改正の対象は「相続開始前5年以内に取得した」貸付用不動産です。5年以上前に取得した賃貸マンション・アパート等は従来通り路線価評価等が適用されます。長期保有の既存物件については、今回の改正による直接の影響はありません。
改正の対象は「貸付用不動産」に限定されます。ご自身が居住する自宅は対象外です。また事業用不動産(自らが使う工場・事務所等)も今回の改正の対象には含まれない見込みです。
改正通達を定める日までに、被相続人等がその所有する土地(同日の5年前から所有しているものに限る)に新築していた家屋(建築中のものを含む)については、改正が適用されない経過措置が設けられています。詳細は今後発遣される通達で確認が必要です。
改正前(現行)の評価
改正後(令和9年1月以後)の評価
改正前(現行)の評価
改正後(令和9年1月以後)の評価
5年超の保有を前提とした賃貸不動産への投資は、今回の改正後も一定の評価減効果を得られます。路線価評価・貸家建付地評価・借家権割合による評価減という基本的な仕組みは維持されるためです。
ただし「短期間で購入して相続させる」というスキームは今回の改正で完全に封じられたと言えます。不動産を使った相続税対策は「長期的な資産形成と一体で考える」という本来の姿に立ち返ることが求められます。
不動産小口化商品は節税効果がなくなった後も、「少額単位で遺産分割ができる」「不動産の直接管理が不要」という利点は失われません。相続税対策ではなく「争族対策(遺産分割をスムーズにする)」という観点での活用は引き続き検討の余地があります。
令和9年1月1日以後の相続・贈与から適用されるため、改正前に購入した物件でも施行後に相続が発生すれば新しいルールが適用されます(5年ルールの起算点は「取得時期」のため、2022年1月より前に取得した物件は対象外)。
整理:改正の対象となるかのチェックポイント✅ 令和9年1月1日以後に相続・贈与が発生するか? → Yes で改正対象✅ 被相続人等が相続開始前5年以内に取得したか? → Yes で対象✅ 貸付用不動産(賃貸アパート・マンション等)か? → Yes で対象✅ 不動産小口化商品(任意組合型・信託受益権型)か? → Yes・取得時期問わず対象
令和9年1月1日以後に相続・贈与が発生する場合、2024年取得の物件は「取得から5年以内」に該当するため、新しい評価方法(取得価額の80%相当)が適用される可能性があります。具体的な判断は取得した不動産の種類・通達の詳細確認が必要です。
5年超保有の物件は今回の改正の対象外です。従来通り路線価評価等が適用されます。ただし今後の通達の詳細によっては追加の論点が生じる可能性があるため、最新情報の確認を怠らないことが重要です。
令和9年1月以後の相続から節税効果がなくなります。現在保有中の方は、①遺産分割対策としての機能を活かすか、②売却して他の資産に組み替えるかを専門家と相談しながら判断することをお勧めします。売却の際の税務(譲渡所得)についてもあわせて確認が必要です。
改正通達の施行日までに被相続人等が所有する土地(同日の5年前から所有している土地)に新築した家屋については経過措置があります。ただし通達の施行日が確定しておらず、また工事完了・賃貸開始のタイミング等の詳細が影響します。安易な決断は避け、必ず税理士への事前相談をお勧めします。
不動産の評価圧縮効果が縮小する中、以下のような対策が引き続き有効です:
令和8年度税制改正により、「不動産を購入して相続税評価を下げる」という短期スキームは事実上封じられました。
今後の相続税対策は「長期保有を前提とした不動産活用」「生命保険・贈与の組み合わせ」など、多角的なアプローチが重要になります。すでに不動産を活用した節税を検討中・実行中の方は、早急に専門家への相談をお勧めします。
相続税対策・不動産の評価改正についてご不明な点はお気軽にご相談ください。当法人は相続税申告・資産承継のご支援を専門的に承っております。
※本記事は令和8年度税制改正大綱(2025年12月19日公表)等の公開情報に基づき作成しています。
今後発遣される通達の内容によって詳細が変更される場合があります。最新情報は必ず税理士または国税庁公式サイトでご確認ください。